「ボッチプレイヤーの冒険 〜最強みたいだけど、意味無いよなぁ〜」
第3話

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異世界転移編

<エントの村>


 とりあえずみんなが見ているからと言ってメルヴァを一度引き剥がす。

 「ま、まずは現状把握が大事だね。いろいろと確かめないといけない事もあるけど、第一に外の様子を調べないと。とりあえず地上階層に行くかな」
 「それならば私も連れて行ってください」

 すかさずメルヴァが同行を求めたけど・・・二人きりになっても大丈夫か?
 まぁ、誰も護衛がない状態で外を見るのも危険な場合もあるだろうし、何よりメルヴァはうちのギルドのNPCの中でも最強の部類に入るから一緒に連れて行ったほうが安全か。

 「わかった、一緒に行こう。あ、シャイナ、ギャリソンに頼んでイングウェンザー城の中がおかしなことになってないか確認してもらって。特に各作業場と調理場、野菜畑や家畜の牧場は念入りにね。パーティ会場はあとでどうにでもなるけど作業場などが壊れていたら生産に支障をきたすから」

 ギャリソン・デューク・ギャブレット。彼は190センチの長身で、白髪に口ひげを生やした上品な物腰の笑顔が優しい執事的な外見をしたNPCでメルヴァが戦闘や城の警備などを統括しているのに対しメイドや料理人を統括しているキャラである。白髪のため老けて見えるが、意外に若くて実はまだ42歳、イングウェンザー城の生産や運営を司る頭脳と言っても過言ではないNPCだ。
 ちなみにメルヴァ同様このギルドには6人しかいない100レベルNPCの一人でもある。

 「ん、わかった」
 「あやめとあいしゃは金庫と資材関係をお願い。特にワールドアイテム、マジックアイテム系の確認は念入りね」
 「了解」
 「はぁ〜い!」

 他にもいろいろあるかもだけどすぐには思いつかないし、それは手の空いているまるんとアルフィスに任せた。

 「では行きましょう」
 「はい、喜んでご一緒します」

 と言う訳で地上3階層にある部屋に転移アイテムで飛び、そこから階段を上って見張り台に登る。するとそこに広がっていた景色は・・・。

 「なっなんだこれ?」
 「草原? ですね」

 イングウェンザー城は辺鄙なところにあると説明したとおり、回りは岩山に囲まれて歩いてくるには大変な場所にあったはずだ。それなのに目の前に広がっているのはメルヴァの言う通り草原。遠くには山も見えて何と言うか、かなり牧歌的な風景が広がっている。

 なにこれ、辺り一面に草原が広がって何も無いなんて、見晴らし良すぎでしょ。
 モンサンミッシェルじゃあるまいし、これだけ周りになに無ければ防御のしようが無い。

 「こんな所にこの城があったら観光地みたいじゃないか」
 「観光地ですか?」

 つい、草原にたたずむ城=海外の観光地と言う日本人的な発想で口走ってしまったけど、よくよく考えたらアニメやゲームでは良く見る光景だし、そもそも宮殿と呼ばれる城ならこのような平地にあってもおかしくは無い。

 ただ、その場合は周りに城下町が広がっているだろうけど。

 「いや、その表現は変か」
 「観光地なら大きな川か湖もほしいですね」

 はい?

 「・・・・・・・・・」
 「・・・・えっと、おかしな事を言いましたでしょうか?」

 予想外の返答にまじまじと顔を見つめてしまったけど、確かに湖でもあれば絵になるだろうなぁ。

 「いや、そういう事ではなく、景色がまるで変わってるじゃないか。岩山はどこに行ったんだ?それにこんな所にあったら敵性ギルドがいたらまったく無防備じゃないか」
 「しっ、失礼しました!」

 と、ここまで言っておいて、小さくなったメルヴァを目にしてふと我に返る。
 もともとが私が言い出したことだし、何より敵自体いるかどうかも解らないのにこの発言は間違いか。

 「おほん、まぁいい。周りが見渡せると言う事は敵が来ればすぐに解ると言う事だし、居るか居ないかも解らないものにびくびくしても仕方がない。とりあえず近くに危険そうな物はないようだからその事は後回しね」
 「はい、ではまず何から手をつけましょう?」

 そうだなぁ、とりあえず見張りとして寝なくてもよくて遠見が出来る天使系モンスターを四方に計六箇所ある各見張り台に配置するとして。

 「今必要なのは情報。この世界がユグドラシルと同じ様に人間の世界のなら敵対さえしなければいきなり襲ってくる事もないだろうし、そのあたりの確認かな」

 その他にも治安とか、生息生物の強さとか、物価とかも調べないと。
 転送アイテムが使えるところを見ると魔法やマジックアイテムは使えるみたいだけど、威力も一度試してみる必要があるかな?

 そこまで考えて手が空いているであろう、まるんに<メッセージ/伝言>を飛ばす。

 「あっまるん? ちょっと外を調べてくるよ、たぶん私が一番適任だろうし」
 「うん、解った。何かあったらすぐに連絡してねぇ。全員で向かうから」
 「了解」

 さすが私の分身。よく解ってる。
 この世界の危険度が解らない以上、何か事が起こったら戦力の小出しはしないで最大戦力で対応するのは当たり前だ。

 「と言うわけで私はちょっと出かけて来るからメルヴァはみんなの所に戻ってイングウェンザー城の内部チェックを手伝ってきて」
 「し、しかし御一人では危険では?」

 その心配はわかる。
 けど、私自身が出向く理由も、もしかしたら危険があるかもしれないと考えているからだ。

 「大丈夫じゃない? 転移阻害の魔法を掛けられたら転移で帰る事はできないけど、空は飛ぶ事はできる。それにいきなりそんな魔法をかけられたら、すぐに他のメンバーに連絡するから全員で助けに来てくれるしね。6人いればまず負けることもないだろうし」

 今まででは絶対に出来なかった自キャラとの共闘と言うのも一度やってみたいしなぁ。

 「でも、通信阻害をされたら・・・」
 「その時は逆に即座に転移する。お尋ね者でもあるまいし、私クラスの力を持ったものでも破れないほどの強力な魔法で、それもいきなりすべての移動手段を疎外するなんて大規模な攻撃はしてこないよ」

 そう安心させるように笑って答える。

 「それに今着ている服も一見ただの魔法少女コスに見えるけど、高レベル装備の外装をいじってそう見せているだけのかなりガチの装備だしね」

 そう言うと、笑顔を作ってくるっと回ってみせる。するとそれに合わせてリボンやスカートがふわっと広がり、それにあわせて光の粒が広がるエフェクトが展開されてまるで少女アニメのワンシーンのような光景が展開された。

 このようなエフェクトは抜きにしても、このピンクの魔法少女装備は私が持っている中でもかなり上位のもので、デザインも性能もかなり気に入っている装備だ。

 「いきなり100レベルPTに襲われたら危ないかもだけど、私は神官が基礎になっている回復系マジックキャスターだし、キ・マスターも取ってるからね」

 これが私が一人で偵察に行こうと考えている最大の理由。

 キ・マスターである私は、ある程度は相手の力をすぐに見抜けるから、勝てないとわかればすぐに逃げられるし、最悪怪我を負ってもすぐに回復が可能だ。

「戦士系特化のシャイナや攻撃魔法系特化のまるんと違って個人としての強さで言えばはそれほど強くないけど、戦線維持能力は高いから、もし逃げられない状況になってもみんなが来るまでは耐えて見せるよ」

 攻撃力はともかく防御力だけで見るなら私は6人の中で一番。
 それに、誰かをかばうなどの行動をしない限り、私が初激で何も出来なくなるなんて事はまず無いだろうし、逃げるにしても一人なら息を合わせる必要もない。

 「と言うわけで行って来るね」

 そう言うとメルヴァが何か言う前に<フライ/飛行>の魔法をかけて飛び立った。

 「うわ、フライってこんなに早かったっけ。それとも生身だから早く感じるのかなぁ。」

 ゲーム時代には感じる事のなかった空を飛ぶ際に掛かる空気抵抗に面をくらいながらも飛び続ける。ただ、今度飛ぶときは装備に気をつけなければなぁとは思いながら。

 「うん、スカートの時だけは絶対飛んじゃだめだな。次からは気をつけよう」

 変な想像を頭から振り払い、まず今考えなければならない事を頭に浮かべる。

 「まず調べるべきは攻撃魔法の威力。あまり強い魔法は目立ってしまうから1か2位階の魔法をどこかで試してみよう」

 思い立ったら即実行!
 イングウェンザー城からある程度はなれた場所に降り立ち無機物製作魔法<クリエイト/創造>で適当な大きさの石像をいくつか作り出す。

 「えっと、どれにしようかな・・・っと、これがいいか<ホーリーレイ/聖なる光線>」

 あまり回りに被害が出ないよう、石像に向かってとりあえずそれほど威力の大きくない攻撃呪文、ホーリーレイを、1発、複数同時、連発と、いろいろとパターンを変えて撃ってみる
 次々と砕け散る石像を見て。

 「うん、見たところゲームの時と同じ様な威力だ」

 と、満足する。
 もっと強い魔法だと変わるかもしれないけど、とりあえず自分の身を守ると言う部分ではこの程度の実験で大丈夫か。
 本当は癒し系の魔法も試してみたいけど、まさか自分を傷つけるわけにも行かないし、何かあった時にMPが足りなくなったなんて事になってもまずいのでその検証は後回し。

 「さて、次に調べるべき事は流通通貨、世界情勢、モンスターや魔法の有無、モンスターがいるのならどの程度の強さか。ユグドラシルと同じなら簡単だけど、こんな風景見たことないし、まったく違うと考えて行動したほうがいいかな」

 とりあえずアイテムボックスを探り、遠見のめがねを取り出す。
 それをかけて20分弱、距離にして30キロほど飛んだ所で畑のようなものを発見、そしてそこで働く人らしい者を見つけ、それが強制ではなく自分の意思で働いていることを確認してほっと一安心する。

 「特に変わった感じもしないし、とりあえずこの世界はモンスターが支配する世界ではないみたいだね」

 次に大体のレベルが解るキ・マスターの特殊能力「気探知」を使って調べてみる。
 対象が探知スキルを持ち、これによって敵対行為と思われる危険がないわけではないが、今のところ移動阻害魔法が掛かっている様子はないし、危険があるようならすぐに転移で逃げようと準備をして確認したところ。

 「1レベル?いや、それ以下かな?ってことはユグドラシルの村人と同レベルか、まだ安心は出来ないけど、もしこれが一般的なレベルなら危険はないか」

 次に問題があるとしたら言葉が通じない場合だけど、まぁ、それは何とかなるだろう。
 実際の世界でも国が違えば言葉が通じない事もあるから怪しまれる事もないだろうし。

 少しはなれたところで着地し、歩いて村人の元へ。
 ゆっくりと近づくと、どうやら向こうもこちらに気がついたようだ。

 「あっ!」

 と、ここで自分の重大な失策に気がつく。
 危険かどうかをばかりに思考が行って装備の防御力しか考えてなかった。

 牧歌的な風景の中、近づいてくる派手なピンク色の魔法少女。(外見年齢18〜20歳)
 どう考えてもシュールすぎだろ、これは。

 「しまったぁ、着替えてくるんだった」

 あまりの馬鹿さかげんに思わず額をたたく。でも、いまさら気付いても後の祭りだよね
 初めてのこの世界の住人との接触、ただでさえおかしな格好をしていて怪しいのだから、笑顔を作ってなるべく明るい口調で話しかける。

 「すみません、ちょっといいですか?」
 「ん?私かな?」

 気が付いてはいたが、見て見ない振りをしようと決めていたであろう村人は、声をかけられて振り向き、私の姿を再確認していぶかしげな視線を向けた。

 まぁ、この格好だから当たり前か。私でもピンク基調の魔法少女がいきなり町で話しかけてきたら同じ表情をするはずだ。

 「えっと、何だね、旅の人」

 よかった、この格好に関してはスルーしてくれそうだ。それにどうやら言葉は通じるみたいだね。

 「着ているきみょ・・・変わった服装からするにこの辺りの方ではないようだが、領主様に御用があってきた方かね?」
 「いや、そういう訳ではないのですが・・・。少々遠くの国から来たのでこの地域の地理に疎いんですよ。そこでお伺いしたいのですが村か町へ行くにはどう行ったらいいのでしょうか?」

 他の国の民族衣装とでも理解したのか、納得?してもらえたようで、村への道筋の簡単な説明を受け、お礼を言って農夫と別れる。

 どうやら歩いても、それほどかからずたどり着ける”エント”と言う名の村があるそうだ。なので魔法は使わず教わった通り農道を進むことにする。

 特に危険もなさそうなので周りに広がる畑を見ながら「のどかな景色だなぁ。」などと考えながらぶらぶらと歩く。途中何度か村人らしき人が農作業をしているのが見えたけど声はかけず、20分ほどの散策の末、前方に集落らしきものが見えてきた。

「あれがさっき教えてもらったエント村かな」

 まぁ、武器もスティック(ごるでぃおん☆いんぱくとは流石に持ってきてはいない)くらいしか携帯してないし特に警戒される事もないだろうと思ってそのまま村の中へ。

 その辺りにいる人でもいいけど、流行に話を聞くならなるべく多くの情報を持つであろう人の方がいいだろうと思い立ち、すれ違った村人(またもいぶかしげな目で見られたが)に村長の家を教えてもらい、たずねる事にする。

 「ごめんください」
 「はい、どなた様かな?」

 家の玄関から呼びかけたところ、中から出てきたのは人のよさそうなおじさん。
 どうやらこの方が村長のようなので、自分はこちらでは見ないような服装をしているが怪しいものではなく、遠くの国から来た商人だと話し、

 「この近辺で商売を始めようかと思っているのですが」

 そう切り出して手持ちの金貨を見せ、これがこちらでも通用するのか、また銀貨や銅貨など小銭に相当する通貨があるか、近くの町まではどれくらいの距離があるかとたずねてみる。
 もしあるのならこの近くの地図も出来れば見せてほしいとも。

 「これは見事な形の金貨ですね。まるで美術品のようだ」
 「ええ、かなり遠くにある豊かな国の金貨なんですけどね」

 この時、流通通貨の確認のため、小銭の通貨があるかと聞いたら不思議そうな表情をされたが、前にいた国の通貨は金貨だけで細かい通貨の変わりに砂金を皮袋で持ち歩き、それを重さで測って代用していたと説明すると納得してくれた。

 「なるほど、これだけ見事な金貨ですと、価値の低い銀貨や銅貨を同じ鋳造で作るには無駄なお金が掛かってしまいますからなぁ」

 日本に住んでいるとそうは感じないけど、プレス加工機がないこの世界では貨幣は鋳造で作って、飾り柄を入れるにしても鋼で彫った刻印をハンマーで打ちつけて入れる程度ではないだろうか?

 それに比べてプレスで作ったようなユグドラシル金貨は、鋳造段階で精巧な型に流し込んで作ったと普通は考えるだろう。
 そう考えると1枚1枚にかなりの手間が掛かるだろうし、安い貨幣をこのクオリティーで作るのは確かに無駄だ。

 「また1枚がこれほど大きいのもうなずける話です」

 こちらの事情を納得してくれた村長は、交金貨と呼ばれるこの国の通貨と付随した小銭の交換レートの説明をしてくれた。

 どうやらユグドラシルの金貨の金の純度、大きさ、重さから見て1枚で交金貨2枚分くらいの価値があるそうな

 因みに金貨の種類は黄銅貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨があり、両替比率はそれぞれ、
4000黄銅貨=1000銅貨=100銀貨=10金貨=1白金貨
と言った感じで、日本円だと1銅貨1000円と言ったところか。
 ただ、食料品は日本と同程度だけど工芸物は高く、たとえば陶器のコップ1個で2銅貨ほどするそうな。

 後、この世界では貨幣の鋳造技術がそれほど進んでいないらしく、見せてもらった銅貨は案の定しっかりした円形ではない上にゆがんだものばかりだった。

 そのまましばらく話を進めたところ、少し打ち解けてきたようで、

 「近くに大きな町はないし、この国は新王のおかげで街道の整備もしっかりしているから、どうせ異国の珍しいものを扱うのなら首都まで行ってはどうですか?」

 とか

 「この付近の領主様は貴族ではあるが気さくでやさしい方なので、挨拶に伺うときはそれほど緊張する必要はないですよ」

 とか、

 「この村にはしっかりした地図はなくて、町に行かないと手に入らないが、領主様なら持っているのではないですかな?」

 など、親切に教えてもらえた。
 見かけの通り、かなりいい人柄の人物のようで、好感が持てる人だ。

 そして最後に今いる国の名前と世界情勢の説明を受ける。
 話によるとここはバハルス帝国と言う国のはずれで、この国はリ・エスティーゼ王国と言う国と戦争をよくしているそうだ。

 しかし、ここは帝国の東側で、リ・エスティーゼ王国とはまったく反対側に位置し、しかもかなりはずれにあるので戦争と言うものを見たことはないとの事。
 辺境すぎて国直属の騎士様も見たことがあるのは数人だけだよと笑っていた。

 話を総合すると、この辺りは商売するには町から離れていて大変だけど安全。町はあるが、あまり大きくはないので高価なものを扱った商売をするなら首都へ行ったほうがいい。首都より先の町に近づけば戦争をしているそうだからもしかすると危ないかもしれないと言ったところか。

 そこで最後に持っている宝石を見せて、これを換金できるか聞いてみる。
 結論から言うと無理との事だった。

 薬草とかが取れる森に近い村ならともかく、畑だけで食べているこのような村では宝石を換金できるほどのお金はそもそも流通していないそうだ。
 ほしいものがあれば作物との物々交換で手に入れる事もあるくらいらしいのだから。

 一通り説明を受けたあと、情報のお礼だと先ほど見せた宝石より小さめの赤い宝石を渡し(これほどの物はもらえないと言われてしまったが)村をあとにする。

 さてどうしたものか。

 どうやらモンスターは山や森に生息しており、平地しかないこのあたりで出ることはほとんどないけど、この世界にもいるらしい。

 また魔法もあるけど、モンスターが出ないため、冒険者さえ来ないから見たことはないそうだ
 ただ、見せてはもらったことはないが、尋ねてくる行商人が持ってくる塩は魔法を使って生み出すとの事だ。

 「この世界では調味料を魔法で作るのか。まぁ、クリエイト系の魔法なら作れないことはないだろうけど、金属ならともかく食べ物を作ってみようなんて考えても見た事もなかったなぁ」

 ただ、この辺りではほとんど見ることはないけど、首都に行けば魔法学院があるとのことだから意外と魔法は発達しているのか?
 もしかしたら100レベルマジックキャスターでも覚えられないほどの、超位階を超えた高位階の魔法もあるかもしれない。

 まぁ、ちゃんとした国がある以上たとえあったとしても、犯罪でも起こさなければそのような魔法を使うマジックキャスターと敵対する事もないだろう。

 次に自分たちと同じ様に他のプレイヤーたちがこの世界に来ていて、それがうちのギルドの敵に回った場合だけど・・・そもそも異世界にいきなり放り込まれたとして、普通の感性ならいきなり敵に回るよりは先に話し合おうとするはず。相手がどれだけの人数この世界に来ているか解らないからね。

 ゲーム世界と違い、相手のギルド名がコンソールで確認できない今、襲い掛かってみたら自分たちの数倍上位のギルドだったなんて事になったら目も当てられない。
 相手にワールドチャンピオンがいたなんて事になったらそれこそ笑うしかない。

 そんな風に考えず、いきなり襲い掛かるような性格異常者はそもそも運営が12年間の間にBANしているからサービス終了まで残っていないはずだ。
 唯一変な人がいそうな俗に言う業者は、終わりが決まってRMTする人がいなくなったユグドラシルに固執していないし、サービス終了まで残っているはずもない。

 結論、生活するだけなら特にこの世界に危険はない。

 と言うことで次に考えるべきはどうやって生活圏を広げるか?と言うことか。
 イングウェンザー城にこもるのなら物資にも困らないし確かに安全だろう。
 維持費にしても、消失さえしていなければ、今ある金貨だけで10万年でも城の維持は楽に可能だ。

 この世界での寿命がどれくらいかは解らないけど、面白おかしく遊んで暮らしていくだけならたぶん何の問題もない。
 でもそれだと面白くないんだよなぁ。

 折角違う世界に来たのだし冒険もしてみたいし、何より異世界の町並みや調度品を見てみたい。町の人はどんな服を着ているのだろうか?どんな食べ物を食べているのだろうか?そう考えるとわくわくが止まらない。

 「よし、一度城に戻ったらみんなに話をして、何人かで町に向かってみるか」

 反対意見(特にメルヴァあたりから)も出るかもだけど行きたい物は仕方ないよな。

 「いや、その前に、この辺りの領主に挨拶したほうがいいかな?いきなりあんな大きな城が建ったのが知れたら攻めてきかねないし」

 村人を見る限り、こんな僻地にいる普通の兵士はそれほど強くはないだろう。
 攻めてこられたとしてもそれほど苦労しないで撃退できそうな気もする。

 「でも、無理に争うよりは友好関係を築いた方がいいよなぁ、やっぱり」

 うん、何事にも対話は大事だ。

 そんな事を考えながら歩く事数10分、村からある程度はなれ、人の目が周りに無い事を確認してから転移魔法を発動、一気にイングウェンザー城まで転移する。

  アルフィンの部屋に戻って他のメンバーを召集してそこで話をしたところ、ひとつ驚いた事実が判明した。
 なんとある程度の情報を自キャラたちがこちらが話す前に知っていたのだ。

 詳しい事は伝わらないようだけど、私が体験したり知った情報で大切であろう物は即座に共有されるらしい。やはり魂が分割されたから繋がっているのだろうと思ったのだけれど、そうなると一つふしぎな事がある。

 私の体験は伝わるのだけれど他の自キャラが体験した事は説明してもらわないとこちらに伝わらないのだ。と言うことは元の人格である私の得た情報だけが一方的に全キャラで共有されるわけか。

 もしかして、私の主人格だけが特別で、自キャラたちの自我はNPCたちと同じだと言う事なのだろうか? 

 ん? 待てよ。と言うことは、危険は高まるけど、偵察とかは自キャラの別人格ではなく常に自分で行った方が何かと便利だということか。何もしなくても伝わるのならこちらから連絡しなくても判断できると言う事なのだから。

 まぁ、これに関してはもともとが戦闘に向いていないうちのギルドだし、危険な箇所に偵察に行くとか、どこかに潜入するとかなんて場面にあう事もそうそうないだろうから頭の片隅において置けばいいくらいかな。

あとがきのような、言い訳のようなもの

 今回アルフィンが使っているキ・マスターの「気探知」
 web版でユリ・アルファが使ってるけど、初期ならともかく、なぜアインズは準備ー4以降もあれを使って周りの大体のレベルを調べさせないのだろうか?
 書籍版は3巻までしか買ってないからどうなっているか解らないけど。

 今回、お金の両替単位が出てきます。書籍版しか読んでいない人は4巻以降に出てきていない限り知らないとは思いますが、これはweb版で書かれている正規なものです。
 気になった人はオーバーロード前編の知識に出てくるので読んでみては?

 さて、前回のあとがきで予告した新NPCは6人の100レベルNPCの一人、ギャリソン・デューク・ギャブレット。
 メイドや料理人統括で身長190センチの長身、白髪で口ひげを生やした優しそうな執事的外見をしたNPCで種族は人間です。

 黒い執事服に身を包んだ上品な物腰で、前衛職。
 どんな武器でも一通り使いこなす事ができるけど、役柄上、ステッキやナイフなどを使うか、素手で戦う事が多いため戦士と言うよりモンクに近いスキル系列多めでステータスが構成されています。

 また、戦闘外スキルとして料理や解読など、執事として必要と思われるものも取っているため、総合戦闘力ではメルヴァに少しだけ劣ります。
 外見はダイターン3のギャリソンね。

 アニメのギャリソン同様、知識量は豊富で頭も回る、イングウェンザー城の頭脳とも言えるキャラクターでダンスも踊れるし料理も作れる、きっと宇宙船やダイファイターも操縦できるはずだ!そんな物はないけどw

 社交界だろうが数学の宿題だろうが、すべてこの人に聞けば何とかなる、ドラえもんのようなNPCで、地下4階層の広大な農地の生産管理や家畜の健康管理、森林の各種樹木の生育状況まですべて完璧に管理をする、「誓いの金槌」にとって生産系統ではなくてはならないと言う設定でもあるキャラクターです

 ただ、デミウルゴスと違い善人なので悪巧みや策略、謀略方面は苦手で、そちらはどちらかと言うとメルヴァのほうが優れています。

 さて、この話でプロローグ編は終わりです。
 これからはいろいろな事が起こりますが、オーバーロードSSなので、基本的な流れとしてアインズたちが遭遇した事件のパロディのような内容になっていきます。

 当然戦争に参加して超位階魔法を使って大量虐殺とか、王様の友人になるなんて事はありませんが、アンデットではなく、普通の人が普通の感覚でいろいろな事件に遭遇したらこうなるんじゃないかな?と言う内容になっていくと思います。

 まぁ、普通と言うにはこの子達もかなり変わっていますがw

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